東京地方裁判所 昭和60年(ワ)4209号 判決 1985年12月27日
原告
松井裕之
被告
星真理
主文
一 被告は、原告に対し、金三九万九七二六円及び内金三四万九七二六円に対する昭和五八年三月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告の、その余を原告の、各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金五七万八六四〇円及び内金五〇万八六四〇円に対する昭和五八年三月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
原告は、昭和五八年三月七日午後〇時五分ころ、東京都杉並区下高井戸一丁目二三番九号先道路において、自動二輪車(一品川こ三六七五。以下、「原告車」という。)を運転し新宿方向から調布方向に向かい進行中、同一方向に進行中の被告運転の普通乗用自動車(多摩五七そ三三七〇。以下、「被告車」という。)が原告の右側から原告の進路前方に進入してきたため、これに原告車が衝突され、頸椎捻挫、左手関節捻挫の傷害を被つた。
2 責任原因
被告は、左方向に進路を変更するに当たり、左後方の安全確認を怠つた過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
3 損害
原告は本件事故により、左記の損害を被つた。
(一) 通院交通費 金一万一一六〇円
原告は、通院のため電車及びバスの交通費として金一万一一六〇円を支出した。
(二) 診断書作成代 金二〇〇〇円
(三) 事故証明書作成代 金六三〇円
(四) 慰藉料 金二〇万円
受傷による通院一か月二日間に相当する精神的苦痛に対する慰藉料としては金二〇万円が相当である。
(五) 修理代 金一五万九八五〇円
原告は、その所有する原告車の修理代として、金一五万九八五〇円を支出した。
(六) 着衣損傷 金三万五〇〇〇円
事故当時原告が着用していた衣服が転倒により破損したため、右着衣損傷につき金三万五〇〇〇円の損害を被つた。
(七) 車両評価損 金一〇万円
原告車は昭和五七年八月に購入したもので、本件事故により、金一〇万円相当額の評価の減価があつた。
(八) 弁護士費用 金七万円
以上合計金五七万八六四〇円
よつて、原告は、被告に対し、、金五七万八六四〇円及び弁護士費用を除く内金五〇万八六四〇円に対する本件事故の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
請求の原因1、同2は認める。同3は不知。
三 抗弁
原告は、右前方を進行中の被告車が左への進路変更の合図をしているにもかかわらず減速措置を講ぜず、かつその後も被告車の進路変更を認めながらクラクシヨンを鳴らしただけで減速措置を講ずることが遅れたのであるから、三割相当の過失相殺がなされるべきである。
四 抗弁に対する認否
争う。
第三証拠
当事者双方の証拠の提出、援用は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 事故の発生
請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 責任原因
請求の原因2の事実は当事者間に争いがなく、これによれば、被告は、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
三 損害
進んで損害について判断する。
1 通院交通費
原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、通院のため、電車及びバスの交通費として金一万一一六〇円を支出したことが認められる。
2 診断書作成代
原告本人尋問の結果及びこれにより成立が認められる甲第一〇号証によれば、原告は診断書作成代として金二〇〇〇円を支出したことが認められる。
3 事故証明書作成代
原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は事故証明書作成代として金六〇〇円を支出したことが認められる。
4 慰藉料
原本の存在及び成立に争いのない甲第七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による受傷の治療のため、昭和五八年三月七日から同年四月九日まで三四日間(実日数一八日)通院したことが認められ、右認定事実及び前記一判示の傷害内容等諸般の事情を総合すると、原告に対する慰藉料としては金二〇万円が相当である。
5 修理代
原告本人尋問の結果により成立が認められる甲第四、同第九号証、原本の存在について争いがなく原告本人尋問の結果により成立が認められる同第八号証及び原告本人尋問のの結果によれば、原告は、本件事故により原告車の修理を余儀なくされ、右修理代として金一二万四八二五円(但し、ヘルメツト代の損傷による買替代金の金三万二〇〇〇円を含む。)を支出したことが認められる。
6 着衣損傷
原告本人尋問の結果及びこれにより原告の事故当時の着衣の写真であることが認められる甲第一四号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は本件事故の際の転倒により、金二万円相当の着衣損傷を被つたことが認められる。
7 車両評価損
前掲甲第四号証、成立に争いのない同第一一、同第一二号証、原告本人尋問の結果により成立が認められる同第一三号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前認定の修理によつてもなお残る原告車の評価損として、金三万円相当の損害を被つたことが認められる。
8 過失相殺
前記一の当事者間に争いのない事実、成立に争いのない乙第四ないし同第七号証、原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前記判示場所の道路(指定最高速度 時速五〇キロメートル)の左側端から数えて一番目の車両通行帯(これを「第一通行帯」といい、以下、右に準ずる。)を原告車を運転の上、新宿方向から調布方向に向かい時速約五五キロメートルで進行していたところ、被告は同道路の第二通行帯の原告よりも前方を原告と同一方向に向かつて時速約四五キロメートルで進行中、道路前方左側の私道に進入すべく、左折するか又は当該私道入口付近の第一通行帯左側端付近に停車するか思案しながら、第一通行帯に進路変更しようとして、自車左側のウインカーの点滅の措置をとつて当該進路変更の合図をしたこと、この後、被告は、引続き、時速約三〇キロメートルに減速した上左方向に転把しつつ左後方を見たところ、第一通行帯後方の被告車から約八・八七メートルの位置に、自動二輪車すなわち原告車が警音器を鳴らしながら接近してくるのを認めたが、原告車よりも先にその進路前方の第一通行帯上を横切ることができるものと考えてそのまま前同速度で左転把を継続し、このため、前記判示の日時ころ、直進進行してきた原告車右前部と被告車左前部を衝突させ、原告を路上に転倒させたこと、他方、原告は、これより先、被告車が前記ウインカーの合図をするのを認め、かつ、同車が左側、すなわち第一通行帯の自己の前方に寄つてくるのを認めたが、前同速度のまま警音器を鳴らしながら進行し、それでもなお被告車が左側に寄つてくるのを認めたため衝突の危険を感じて急制動の措置をとつたものの間に合わず、前記衝突に至つたこと、以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。
右認定の事実によれば、本件事故発生の主たる原因は左方向に進路を変更するに当たり左後方の安全確認を怠つた被告の過失に帰せられるというべきであるが、原告は被告車の前記ウインカーによる合図を認めながら時速約五五キロメートルの高速度のままで進行したものであるところ、このような場合、警音器を鳴らして相手車両を避譲させようとするのみでなく、自らも、相手車両の今後の動静に十分対応できるように、適宜、減速措置を講ずべき義務(いわゆる安全運転義務の一範疇)があつたものというべきで、原告にも右の義務を怠つた過失があり、右過失もまた、本件事故の発生に寄与したものといわざるを得ず、両者の過失の本件事故に対する寄与割合は、被告九、原告一と見るのが相当である。
そうすると、前記1ないし7の損害合計金額三八万八五八五円から過失相殺としてその一割を減ずるべきであるから、その残額は金三四万九七二六円となる。
9 弁護士費用
原告が原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の報酬の支払を約していることは弁論の全趣旨により認められ、右の弁護士費用としては金五万円とするのが相当である。
四 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、金三九万九七二六円及び弁護士費用を除く内金三四万九七二六円に対する本件事故の日の後である昭和五八年三月八日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を適用の上、主文のとおり判決する。
(裁判官 福岡右武)